鶴の夫婦は絆が深い

2009年2月23日付の日経新聞文化面に「鶴の夫婦は骨まで愛す」という題で鶴の生態に関するエッセ
イが掲載されました。筆者は高橋良治さん=釧路市丹頂鶴自然公園名誉園長
文中、あまりに感動的な記載があったので、当時『亜矢姫』談話室に紹介の書き込みをさせてもらったと思
うのですが、その記録が残っていない。
幸い、その新聞記事の切り抜きが手許に残っているので、改めてその概略をここに書き写しておきたいと思
います。・・・高橋良治さんは丹頂鶴の卵を人工でふ化させ人工でヒナを育て、そして自然界に戻すことに
成功した人です。下の書きだしの部分はご自身のことを他人の目に見立てて書いておられるのでしょう。

☆ーーー
 釧路湿原を一望できるコッタロ湿原展望台。ここを訪れると不思議な夫婦に出会う。野良着で、男はほお
かむり、女は姉さんかむり。ぬかるんで足をとられそうな湿地でもすたすた歩いてくる。
語りかけても応えてくれないし、菓子をあげようとしても受け取らない。あるときたばこを吸いたくなって
ライターがないときにマッチを黙って貸してくれた。こういうことを何回か繰り返して、ふと思った。二人
はタンチョウ夫婦の化身に違いない。


☆ーーー自然公園の管理人に
 釧路市がタンチョウの保護を目指して丹頂鶴自然公園を開設したのは昭和三十三年(1958年)その時
から管理人として、これまでに五十羽以上のヒナを育ててきた。成鳥になれば自然に帰り、その中で夫婦に
なった二羽が私に会いに来るのだと思う。
タンチョウ夫婦のきずなは本当に強い。オスが「クォー」と一声、メスが「カッカッ」と二声鳴き合うダン
スでいったん夫婦になると、どちらかが死ぬまで、いや、死後もしばらくは別れることがない。
死ねば動かなくなるが、生きている方は死体にキツネやカラスが近づくと、翼を広げて威嚇し、くちばしで
つついて撃退する。骨だけになっても行動は変わらない。大雨で死体が流されたり雪の下に隠れたりして見
えなくなって初めて、どこかえ飛んでいく。

☆ーーー卵に向って声かける
 親子の愛情も卵のころから実に深い。時々くちばしで転がして位置を変える。「転卵」や、ときどき温め
るのをやめて冷やしたり湿り気を与えたりする「放冷」が必要。
入園十年目から始めた人工ふ化では、こうした作業で時々卵の中から「ヒイッ」と声が聞こえてくるのに気
づいた。
しかも「ピーちゃん」と声をかけると「ヒュヒュヒュ」と返事がある。そして転卵の位置が悪いと「ピーピ
ー」と不満げに鳴き、いいと「ピュルルルン」と心地よさそうに鳴く。
この親子のコミュニケーションがヒナがかえった後こそ大事だと気づいたのは、えさを食べなかったり病気
になったりして次々に死んでいき、苦しみ悩んでいた時だった。酒を飲まづにはやりきれなくて、ある晩、
ヒナを抱いて寝て肩の下で圧殺してしまった。
ひどく落ち込んで仕事をやめようと思ったが、禁酒して再起にかけたとき、「ピーちゃん、うまいからくっ
てみろ」と声をかけたら、えさの魚を全部食べてくれた。「そうか。卵のとき、かけた声を覚えていたんだ
」。それからは必ず呼びかけながらえさをやった。
寝るときも飛ぶ訓練をするときも音が大事だ。心臓のある左胸に抱いてねると、鼓動に安心するのかヒナ同
士の争いもなく、すくすく育つ。それはいいが、私の脇毛をくちばしでくわえたまま寝るのが、くすぐった
くてたまらない。離そうとすると、くわえたまま動き回られ痛いのなんの。おかげで私の左の脇毛は一時一
本もなくなった。

☆ーーー右と左も自ら教える
 飛ぶ訓練では旋回で、自分の腕を上下に動かして右と左を教える。が、ミギ、ヒダリの平板な発音では
理解してもらえない。右をミギと平板に言ったら、左はヒダアアリイと抑揚をつける。
全速力で一緒に走るダッショを日に何度も繰り返して助走を教え、ようやく大空を舞えるようになると、上
空を旋回して早く来いとなく。こっちは息を切らせてぶっ倒れている。飛べない人間が鳥に飛び方を教える
のだからおかしなもんだ。
思えば、今から約五十年前、鶴公園に初めて連れてきたタンチョウのうちオスの二羽に、当時、南極に置き
去りにされながら生還した稚内生まれの樺太犬、タロとジロの名を付けた。二羽とも野生のメスとつがいに
なって、たくさんのヒナを育てた。特にタロは三十六歳まで生きる長寿だった。

☆ーーー
剥製ではあるが、平成十年(1998年)の北海道公民館大会で大会長の山田和弘釧路市教育長(当時)に
記念公演を依頼されたとき、稚内の会場でタロとジロに初めて会って大感激した。タンチョウのタロとジロ
も二匹の不屈の生命力をもらったに違いない。何度もお礼を申し上げた。二匹は尾を振っているかのように
見えた。
コッタロ湿原でも夫婦に会えないときがある。そういうとき私は「クォー」と鳴き合いの声をかける。そう
すると、二羽のタンチョウが飛んでくる。力強く生きている。きっと子育て中なのだろう。
私もいつかは死んで骨になる。そのときもタンチョウはそばにいて守ってくれるだろう。本当に鶴の恩返し
だ。


丹頂鶴は賢く、一夫一婦制を守り浮気はしないとのこと、そして受けた恩は忘れないという性質もあるそう
で、その実態は高橋さんの著書「鶴になった老人~丹頂鶴の恩返し」=角川書店 に詳しく書かれているそ
うだ。鶴の恩返しが実態としてあるとなれば、日本の民話・鶴の恩返しも、あながち全くの作り話ではなく
、そのような鶴の行動に昔の人もまみえていたのかも知れないと思えてくる。

島津亜矢さんが演じられた日本の民話「鶴の恩返し~おつう」も、この恩返しと夫婦の情愛をテーマとして
上演されましたが、今DVDで観返してもその熱演ぶりはお見事です。
実演では広い舞台を見渡すことになるので、気が付きにくいところもあって必ずしも良い評価をされない向
きも少しはあったように思いますが、DVDではアップで映し出される場面もあってその迫真の演技が力を
もって迫ってきます。特に、最後の場面で空に舞い上がり、悲しみを涙で叫ぶ ‘さようなら~’ の繰り返
しは、そのひとつひとつに調子の違う抑揚があって思わず‘おつう’に同化させられて泣けてきてしまいます
。鶴の生態を少し知ったせいか、観る方の思いも深くなったのかも知れません。

この日本の民話「鶴の恩返し~おつう」は、DVD「島津亜矢リサイタル2008無双」にあります。
2008.10.24NHKホールにて収録・2009.1.21発売 全篇を通し記憶に残る秀作の一本だと思います。

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    亜矢姫の唄は芸術だと固く信じているおじんです。
    コンサートなどに参加したい気持ちはやまやまなれど、不如意のことが多いので、これは条件が整い次第となっています。

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