ほんのちょっぴりの、読みかじり

小西良太郎さん(俳優、音楽評論家、音楽プロデューサー)が、知己の方の上梓された図書について、ご自
身のホームページ上でエッセーを書かれていたので、読ませてもらった。
さらに興味が尽きないので、その図書も読んでみた。
著者名は稲垣博司氏、早稲田大学卒業後、渡辺プロダクションに入社。その後、CBS・ソニーレコード、
ワーナーミュージック・ジャパン、エイベックス・エンタテインメント等の要職を経て現在は同社顧問。
50年にわたり日本の音楽業界をリードし、多くのスターを輩出した。日本で一番レコードをセールスした
男と呼ばれる。~巻末の著者紹介より。

冒頭の書き出しはこうである~
もう何十年も前の出来事なのに、今でもたまに夢でうなされて目が覚めることがある。・・・
[じたばたしても始まらない~人生51勝49敗の成功理論=光文社・刊]

1972年12月31日、東京・日比谷の帝国劇場。音楽界で最も権威のある賞の一つである第14回日本
レコード大賞の最優秀新人賞が決まろうとしていた。
最優秀新人賞の候補は、麻丘めぐみ、郷ひろみ、青い三角定規、三善英史、森昌子。この中から、たった一
人が選ばれる。私は、自身が勤めるCBS・ソニーに所属する郷ひろみが選ばれると確信していた。
・・・我々は、総勢35人の審査員への根回しをばっちり済ませ、過半数を超える審査員から郷への投票の
感触を得て、受賞を信じて疑わななかった。

ところが、名前を呼ばれたのは「芽ばえ」を歌った麻丘めぐみだった。ふたをあけてみると、郷が得た投票
数はわずか2票。控室で我々は凍り付いた。・・・

ショックなことに、審査員の5,6人から「稲垣さん、だめじゃないか、しっかりしないと。郷に入れたの
に、郷が破れて恥をかいちゃったよ」と言われたのだ。得票数は2票だから、残りの数人はうそをついてい
る。投票は無記名式だった。・・・
「賞レースは本当に怖い」と思った。同時に人間も怖いと思った。


この書き出しを読んで、思い出し出してしまったのは菊池寛の短編小説「入れ札」のことだ。
忠次(忠治)が役人に追われて赤城から信州へ落ち延びようと大戸の関所を破ったあとのことだ。
11人の子分と一緒だったが、こんな大人数では道中も目立つので、人目につかない3人程に減らしたかっ
た。ところが、誰と誰、と名指しするには忠治の情が忍びない。籤をするには忠次の思惑に叶わない。
そこで入れ札となるのだが・・・
どうしても一緒に行きたい古参の稲荷の九郎助は、気持ちを抑えきれずに、自分があまり役に立たないのを
承知で自身に一票を投じてしまう。
結局、忠次が望む3人が選ばれたのだが、その中に九郎助は入れない。あとは、忠次の言い分を聞いて、そ
れぞれの道を行くことになる。九郎助は、昔から気心の知れた弥助だけは、たよりに出来るかもしれないと
いう期待はあったが、出たのは自身が投じた一票だけだった。
それからしばらく、弥助と二人で道中を共にすることになるのだが、道々、弥助はこう言うのである。
「野郎達が、お前を入れねえと云うことはありゃしねえ。十一人の中でお前の名をかいたのは、この弥助一
人だと思うと、俺あ彼奴等の心根が、全くわからねえや」・・・

ここでの、弥助の気持ちは忠治を思う一途だし、良かれと投じた入れ札は順当な結果となって気持ちもさっ
ぱりしている。しかし、救われないのは九郎助だ。
三人の中の一人は2票で決まったから、弥助さえ入れてくれていればと思えば、腹立たしさも無念の思いも
募ってくる。ただ一人、恥ずかしい思いをするのは九郎助だけである。

この小説では、弥助の人間としての正義と優しさが際立って見えているように思うし、また、九郎助には、
はかない人間のエゴも、心の弱さもも見せつけられるようで、一種の哀れさをも感じてしまう。
この小説、菊池寛の人間洞察力がすごいと思うし、文章も調子が良くて流れるようだから気持ちが良い。


比べて、稲垣博司氏の冒頭の話は、‘今でもたまに夢でうなされて目が覚めることがある’と書かれている
程のことだから、うそを言っている人達に対しては人間としての外道を感じてしまうが、こんなことも、人
間社会の有り様の一つして、心しておかなければならないのだろうかと、やるせない思いが募ってくる。

また、こんな事も書かれている。・・・
・・・かっての賞レースでは時には審査員にもお金が動いたようだ。「あいつはそういうことをしない。金
銭は受け取らない」という風評が立てば、誰もその人のところにはいかない。逆に言えば「あいつは金で転
ぶ」と見られれば、そこに向って動く。
金銭の動きは目に見えないが、目で確認できる指標があった。それは洋服。
プロダクションの中には、なぜかスーツの生地を審査員に送るところがあった。その生地の色合いや模様が
、プロダクションによって独特で、審査員の着ているスーツによって「あっ、この人はあそことつながって
いる」と読めてくる(それは、NHK紅白歌合戦のプロデューサーらも同じだった。面白いものでひと目で
分かる)・・・

上に書かれているような事は暴露とも思わないが、昔から想像していたことが、より近くで物事を見てきた
り、或いは対処してきた方の話によって信憑性が高くなったと感じることは確かだ。
ただ、今の音楽業界はプロダクションの力が絶大だと感じるし、メディアに対しても力の使い方や、その宣
伝力もまた絶大だと感じるから、アタックを掛けられる放送等のメディアは余程しっかりした理念を持って
対処していかないと、あまねく視聴大衆を満足させるような質のよいものは、なかなか出来にくいのではな
いかと思える。
世の中、綺麗ごとばかりでは、やっていけないという処もあるかも知れないが、度を超すと大衆を馬鹿にす
ることに繋がりかねない。大衆を誤魔化し、白けさせることは決して、して貰いたくないと思うのである。

小西さんも書評で書いておられる。
・・・利益を追求するために過度の若者偏重に陥っていた。それを今、「音楽へのリスペクトを失わせ過ぎ
なかったか?」と省るあたりの記述は、率直な本音だろう。・・・・・と。

http://to-ryo.com/menu01/2013/04/839.html

コメントの投稿

非公開コメント

こねこ時計 ver.3
CATS
Sweets
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
フリーエリア
    follow me on Twitter
    カテゴリ
    最新記事
    プロフィール

    ふうてんの猫

    Author:ふうてんの猫
    亜矢姫の唄は芸術だと固く信じているおじんです。
    コンサートなどに参加したい気持ちはやまやまなれど、不如意のことが多いので、これは条件が整い次第となっています。

    リンク
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR